生成AIは開発者の自己学習を加速する

生成AIは開発者の自己学習を加速する

lacolacoさんのブログが面白かったので、最近あった自分の体験をちょっと共有したいなと思います。

若手開発者の育成がAIによってむしろ有益になる理由

スキルの低い開発者にAIで下駄を履かせて生産性を補強するということではない一人前の開発者になるまでの育成期間が圧縮される

https://blog.lacolaco.net/posts/the-bet-on-juniors-just-got-better

生成 AI は知らない領域への挑戦をアシストする

CircleCI に転職してまだ1ヶ月経っていないのですが、割と初期から「今じゃなければ大変だったかも・・・」と思う出来事がありました。それは「ちょっとAWS使ってCircleCIのセルフホスト版環境を立ち上げてみようか」という課題が出た時のことです。

入社してから知ったのですが、CircleCIは自前のインフラ環境にデプロイできるセルフホスト版製品「CircleCI Server」も提供しています。顧客事例に載っているケースですと、DeNAさんなどが使われていて、セキュリティ的な要件等で外部クラウドサービスを利用しづらい場合などに選ばれています。で、このCircleCI Serverはk8sを使ってさまざまなサービスが設計されています。なのでAWSにデプロイする場合は、EKSを使うことになるのですが、この領域は見事に未経験で、「名前はちょっと聞いたことあるくらいですねー」というところからのスタートでした。

マネージャーや先輩社員の方も、「時間がかかるだろうから、早めにはじめてちょっとずつ覚えてくれたらいい」くらいの温度感で課題を出されたのだと思います。実際、ドキュメントを見て、「あーこれは先が長そうだ・・・」と思ったのを覚えています。

NotebookLMは、ドキュメントを使った事前学習をアシストする

「わからないことがあったら聞いてくださいね」は、新しいことへ挑戦する人に向けられるかなり親切度合いの高い言葉です。実際Slackでメンションしたり、「ちょっと通話で教えてください」と相談すると、実際の案件で起きたことなども交えて色々教えてもらうことができました。

ただ、これはもうどうしようもない問題だと思うのですが、「何を聞いていいのかわからない」「何が今問題なのかがわからない」場面が、初心者には必ず発生します。今回のケースでは、「k8sをEKSにデプロイしてアプリ作るのはわかる。でもそれ以上のことがわからなくて、ドキュメントの一部ステップが何してるかわからなくなる」場面がありました。こうなると1-2時間くらいまとめて時間を確保してもらって、通話で画面共有してもらいながら教えてもらわないとダメかもしれない・・・となります。

ただ、タイミング的にチームがかなり多忙な時期だったこともあり、今回は「調べられることはできるだけやってからにしよう」ということで、会社が契約している生成AIサービスを総動員する方向にシフトします。そして事前学習フェーズの「わからない」に対する解決策として使ったのが、NotebookLMでした。

今回のケースでは、セットアップ手順が公開ドキュメントとしてウェブサイトに用意されていました。これを全てNotebookLMにソースとして追加します。

その後、「ソースの内容について自分が50%理解した」と思えるまでStudio機能で解説スライドやテキストの解説記事、インフォグラフィックに動画などを作らせます。自分の場合、認知特性的には視覚優位よりかなーと思っているため、スライドやインフォグラフィックの生成を多用しました。

「なんとなく全体像がわかってきたなー」と思ったら、NotebookLMのチャット欄を使います。今度は資料や公式のドキュメントを読んでわからなかった点を、片っ端から質問していきます。NotebookLMは提供しているソース内容を極力引用して回答しようとする特性があるため、「ソースにない話」かつ「エッジケースなどの例外系」については「わからない」と答えてきます。しかしそれが初学者にとってありがたく、「あ、これは資料にない話なんだ」と認識することができます。どうしても気になった場合は、別途Claude / Geminiに質問して、彼らが引用してきたソースを読むことで好奇心を満たしました。

Step by Stepの作業ガイドはClaude / Geminiなどに

セットアップガイドやチュートリアルにおける作る側・読む側に共通した課題は、「読者の想定レベルが一致するかどうか」です。ドキュメントによってはある程度の基礎知識、今回であればAWSのVPCやIAM / セキュリティグループ・k8s / helmなどの知識でした、を持っていることを前提に話が進むことがあります。そうなると初学者の壁になるのが「ドキュメントに書かれていない作業や理解の存在」です。また、ドキュメントには「XXの場合はA、YYにしたいときはBを選ぶ」のような条件分岐も入りがちです。そうなると分岐条件のどちらにいけば良いかの判断ができない人は、そこで立ち往生するか、勘で選んだ結果後続のステップで矛盾した分岐を選んで迷子になるなどのケースが発生します。

その辺りの問題を回避するため、ドキュメントの内容は読んだ上で実際の作業手順は Claude に作らせることにしました。stepごとの成否を共有しやすくするため、「CLIで作業を進めること」のような条件をつけてガイドを作らせます。

あとはわからないことやエラーが起きたと感じた場面に遭遇するたびに、実行したコマンドと実行結果をClaudeに渡していきます。

Claudeをベースに使っていましたが、使い過ぎによる制限が発生した場合はgeminiも併用しました。

調査しないとわからないエラーは Cursor へ

ワークショップを開催すると実感させられるのですが、CLIでタスクを指示したとしても、どこかで何かのエラーや不具合が発生します。自分のケースでもPodがうまく起動していなかったり、ドメインの設定もれがあったりでさまざまなトラブルに遭遇しました。

これらの調査と解決に利用したのがCursorです。これはAWS CLIやeksctlなどのコマンドが使えるツールならなんでも良かったので、Claude Code / Windsurt / Devinなどでも問題ないと思います。ただ、ブラウザツールが使える系の方がUIを操作しての調査まで依頼できますので、MCPサーバーを登録するなどの準備をしておくほうがよさそうです。

Cursorでは発生している問題やリソースの情報、今回はAWSなのでARNやk8sクラスターのnamespaceなどを共有します。その上で実施すべきコマンドの提案を受けたり、実行結果に基づくアドバイスをもらうようにしました。調査までエージェントに実施させる場合、AWS CLIコマンドをかなり積極的に活用してきますので、 IAMの権限を絞ったprofileを用意してあげるほうが安全です。

調査結果は区切りの良いところでmdファイルに生成させます。Kent Beckがブログで「Not vibe coding—not accepting whatever the AI spits out.(バイブコーディングではなく、AIが吐き出すものを鵜呑みにしないコーディングです。)」と書いているように、「生成AIがなんとかしてくれた。よかったよかった」で終わってしまうと、本来の目的である学習につながりません。AIやエージェントに委譲したタスクについては、必ずレポートを生成させて何をやっていたかを理解、せめて記録しておくようにしましょう。

生成したレポートはClaudeやChatGPTなどの「学習モード」を搭載しているAIチャットに共有します。そうすることにより、「何を見落としていたのか」「どんな理解が足りなかったのか」などを対話形式で振り返れます。

最後は人に相談する

ここまでサービスを組み合わせれば、独りでどうにかなりそう・・・にも見えます。ただ、チュートリアルの目的は「そこからどれだけ学びを得るか」です。そう考えると、チュートリアルにない情報、例えば実際の案件で発生した問題とその対処法や、構成のカスタマイズ方法や相談されることの多い領域のような現場の情報についても、知っておく必要があります。

生成AIが「ドキュメントにある情報」に対するアシストをカバーしてくれている分、定期的な1on1や相談のために時間を確保した通話においては、より実践的な質問や情報を先輩から学ぶことに集中することができました。ただ、もちろん基礎があやふやな時点で応用の話を聞いても「なるほど?」となってしまいます。ここでのポイントは2つだと思っています。1つは振り返りの際に「そういえば先週の通話で似たような話されていたな・・・」と思い返せる状態にしておくこと。もう1つは共有された情報をメモしておき、ClaudeのエンタープライズサーチやGeminiのGoogleドライブ検索なども利用して検索できる状態にすること。つまりはSECIモデルにおける暗黙知の明示化です。

そういう意味では、Zoomなどで通話する際にAI議事録機能をオンにしておくほうが良いでしょう。自力のメモでは「自分がわかってないこと」をメモすることが至難の技ですので・・・

AI 伴走型チュートリアルに挑戦した結果

今回のチャレンジについては、1-2ヶ月がかりで質問や相談を密に行う想定だったと後で知りました。ただ、利用できる生成AIサービスをできるだけ活用し、応用的な質問や相談に絞ったことで、2週間と少しで大体完走できました。もちろん完全に理解したとはまだ言い難い状態ですが、それでもコマンド実行記録などもClaudeに保存してあるため、2回目のチャレンジではそれらの履歴も使ってよりスムーズに立ち上げができると思っています。

生成AIを学習の投資に活用する

Kent Beckはブログで、初学者の学習について次のようにコメントしています。

https://open.substack.com/pub/tidyfirst/p/the-bet-on-juniors-just-got-better?selection=ba349ca7-a27f-44df-b05b-5c22915a2002&utm_campaign=post-share-selection&utm_medium=web&aspectRatio=square&textColor=%23ffffff&bgImage=true

かつては数日かかっていたタスクが、今では数時間で完了します。これはAIが作業を行うからではなく、AIが探索空間を縮小するからです。どのAPIを使うべきかを考えるのに3時間もかかっていたのに、AIが提示した選択肢を評価するのに20分しかかかりません。こうして解放された時間は、利益を生まない別の機能に投資されるのではなく、学習に充てられます。

Kent Beckブログ記事を Google 翻訳
https://open.substack.com/pub/tidyfirst/p/the-bet-on-juniors-just-got-better?selection=ba349ca7-a27f-44df-b05b-5c22915a2002&utm_campaign=post-share-selection&utm_medium=web&aspectRatio=square&textColor=%23ffffff&bgImage=true

「探索空間を縮小する」という言葉はかなり好きで、初学者にとっての「わからない = 霧がかかっている状態」を事前にどれだけ解消し、見通しの効く環境を作れるかは学習の効率化に大きく貢献すると思っています。

そして今回紹介したようにClaude / GeminiやNotebookLM、コーディングエージェントなどは、ステップごとの「わからない」を解決し、「何がわからなかったのか」を振り返る機会を提供してくれます。

注意が必要なのは、生成AIに作業を丸投げして終わりにしたり、作業後の振り返りを行わない使い方をすると、ただ労力を外注しただけに終わることです。t-wadaさんもコメントされていますが、それはあくまで労力を外注しただけであり、能力にはつながりません。

生成AIを利用したオンボーディングは2026年のトレンドに?

実際にやってみて、そしてブログ記事やインタビューなどを読んでいて感じましたが、何かを学習してほしい時の支援リソースとして生成AIを取り入れるのは想像以上に効率的です。特に「会社のことを知ってほしい」「プロダクトのことを知ってほしい」もしくは「新しい概念やツールを社内で紹介したい」のようなケースにおいては、NotebookLMでのスライド作成やノートブックの社内共有などが大きな威力を発揮しそうです。

Angular / Next.jsなどがMCPサーバーを提供しているのもそうですが、「開発者がより高速・効率的に学びを得るためのフィードバックサイクル加速装置」として、2026年はより生成AIの社内活用ケースが増加するような気がします。

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Hidetaka Okamoto

ビジネスデベロップメント

DigitalCubeのBizDev。EC ASPの開発やStripeのDeveloper Advocateとしての経験を元に、SaaSやECサイトの収益を増やすための方法・生成AIを使った効率化や新しい事業モデルの模索などに挑戦する。